αハンター:8月の市況総括

「ウイルスは広がり、みんな死んだ。そして、彼らは目覚めた。」
映画『バイオハザード』シリーズの主人公アリス


お馴染みの映画『バイオハザード』のゾンビさながらに、8月の暗号資産は瀕死の状態から復活したと言っても過言ではありません。

ただし、映画にも暗号資産市場にもクリフハンガーはつきもの。8月に見られた熱狂的な強気の勢いは徐々に減速していく可能性も当然あります。今後数週間は、トレーダーとしての知見と新たな取引環境に適応する能力が今まで以上に試されることでしょう。資金調達率と現物価格を単純比較するような予測分析は、もはや遠い昔のものとなったのです。現在の暗号資産市場の成熟度は、従来型金融(TradFi)のアセットクラスのレベルに近づいています。

今後もドラマチックな展開が続いていくことでしょう。ポップコーンを片手に、ぜひ最前列でお楽しみください。


1. ゲンスラー委員長とインフラ法案

暗号資産を取り巻く規制の強化の噂はこれまでも尽きることはなく、大抵はFUD(恐怖、不確実性、疑念:fear, uncertainty and doubt)であるとして黙殺されてきました。しかし、米証券取引委員会(SEC)のゲーリー・ゲンスラー委員長は、8月3日、登壇したシンポジウムで暗号資産市場の実状と、それに対するSECのスタンスを明確に表明したのです。

ゲンスラー委員長は、現在の暗号資産市場を詐欺や不正行為が蔓延している「西部開拓時代」のようだと揶揄し、市場で流通している多くの暗号資産を「登録されていない有価証券」として分類されるだろうとの見解を示しました。また、投資家を保護する十分な体制が整っていないと述べ、暗号資産プロダクトは証券法に則り、SECの管轄下に置かれるべきだと主張しました。

米国側の動向次第では、他国の規制当局にも影響を与える可能性があります。

次に、暗号資産への課税強化が議論の的となっている米インフラ法案に関する動きを見ていきましょう。この法案は、端的に言うと、今後の米国における暗号資産の課税範囲を定義づけるものです。この定義づけが不十分な場合、意図せず、本来想定している「米国拠点の暗号資産取引所」以外にも課税対象が及んでしまい、米国の暗号資産の成長を全面的に抑制してしまう危険性をはらんでいます。修正案が提出されましたが、依然として、イーサリアムのプルーフオブステーク(PoS)ネットワークや分散型金融(DeFi)に対して風当たりの強い内容となっており物議を醸しました。当然のことながら、暗号資産業界では法案の修正を求める動きが見られました。

皮肉なことに、暗号資産はその爆発的な成長によって「出る杭は打たれる」を身をもって経験しています。特にDeFiが急成長する中で、規制推進派からの反発を受けてきました。しかし、これらは避けることができない成長痛とも言え、暗号資産が世界の金融秩序において、確固たる立ち位置を確立しつつあるとの見方もできるでしょう。


2. 注目のEIP-1559実装

イーサリアムの大型アップデート「ロンドン」ハードフォークが、予定通り8月5日に行われ、注目のEIP-1559を含む5つのEIP(改善提案)が実装されました。

今回のアップデートでは、イーサリアムのガス代の支払いメカニズムが変更となり、マイナーへの『ベース・フィー(BASE FEE)』がバーン(焼却)されました。実装からわずか1ヶ月で200,000ETHを超え、現在213,836ETHとなっています。今後のイーサリアムのデフレ資産化が期待されています。

出典:Ultrasound – EIP-1559におけるETHのバーン数

トークンのバーン(焼却)は暗号資産にとって目新しいものではありませんが、このようなダイナミックなスケールで行われたのは史上初だと言えるでしょう。DeFiからNFTまで、暗号資産に関わるすべての主要セクターに影響を与える出来事でした。


3. 8月前半の市況

8月初めまでのリターンは、明らかにイーサリアムの圧勝となりました。イーサリアムとビットコインの相互関係に注目しながら、ガス代のバーンによってもたらされた市場の構造変化を確認していきましょう。

マクロ資産の当年度収益(%)

規制の逆風に立ち向かうかのように、8月は強気へと転じました。この流れは、先物取引市場の値動きにもよく現れています。

BTC先物年換算ローリング3ヶ月ベーシス

株式オプションにおいてインプライド・ボラティリティ(IV)が決算発表後にクラッシュすることがあるように、ハードフォークへの期待感からイーサリアムもこのIVレベルに近い急上昇と暴落を経験しました。

タイムラプスATM IV 期間構造

IVベースでみると、ビットコインに対しては未だ緩やかな曲線を描いており、過小評価されていた感が否めません。

ETH-BTC 1ヶ月 / 3ヶ月 RVスプレッド
ETH-BTC 1ヶ月/ 3ヶ月 ATM IVスプレッド

また、最も注目すべきはNTFのボリュームと価格の急上昇であり、前回の高騰(Metakovanが約75億円でビープルの作品を購入した)は今年初めに5,000ドルへと近づく前兆だったため、今後の動きに期待が高まります。


4. ポジション保有

8月前半、ビットコインは11%ほどの上昇を見せました。規制強化の暗雲が立ち込め、デリバティブ市場は活気を欠いていた中、主に現物の買い注文が市況を押し上げました。基本的にこうした動きは機関投資家の大規模な買い注文が触媒となっていますが、彼らのターゲットは主にビットコインであり、かつてグレースケール・インベストメント(Grayscale Investments)が担っていた役割を引き継いだと言えるでしょう。ただしその規模感を見れば、かなりおとなしい感じではありますが・・・。

注目すべきは、無期限契約や先物契約の未決済ポジションが資金調達率と並んで増えており、基本レートに返り咲いていたことです。これはこの数ヶ月間に見られなかった現象で、強気回復の可能性を大いに示しました。ただ、長期のレバレッジは大きくなりましたが、依然として5月に見られたようなレベルにはほど遠いと言えます。この戻りがまだ「過渡期」であり、今後も続いていくことを意味しているでしょう。


5. オプション取引 イーサリアムの強気回復

デルタ25リスクリバーサル
タイムラプスATM IV 期間構造

イーサリアムのハードフォーク「ロンドン」の実施以来、IVの期間構造はコンタンゴ(順ざや)となりました。一方で、OTMのコールとプットの歪みが時間の経過とともにさらに顕著になり、長期的な強気市況へと向かっていたことを示しています。


6. 8月後半の市況

暗号資産の時価総額

8月後半に入り、暗号資産の時価総額は、フィボナッチの観点から下落傾向にあり、4月から5月にかけての高値安値である61.8%に留まるなど失速しました。

資金調達率は基本レベルで安定していましたが、暗号資産が高値更新を続けるためには、さらなる市場流動性が必要でした。

グレースケール・インベストメントによるビットコインの値下げや上場取引型金融商品(ETP)ファンドの流入が依然として消極的であることからも分かるように、暗号資産市場は表面的にはあまり活気づいていない状態が続きました。

グレースケール・インベストメント BTCプレミアム
デジタル資産ETPと投資信託の純新規資産(100万USドル)

資金流入の最後の砦であるステーブルコインの発行も、価格行動とは乖離している印象を受けました。特に、「規制と相性がいい」はずのステーブルコインの時価総額が8月後半に下落しており、機関投資家の参加が消極的であることを示唆していました。

USDTの時価総額における競合の時価総額(%)

7. 誰にだって素敵な日!

EIP-1559の実施とNFTブームにより、アルトコインのブーム再来との呼び声を耳にするようになりました。アルトシーズンの最大の指標であるBTCドミナンスは下降傾向にあり、サポートゾーンで底打ちしていました。

出典:TradingView-時価総額BTCドミナンス(%)

しかし、イーサリアムのレイヤー1では復活も見られたので、いくつかご紹介しましょう。まず、SOLが史上最高値を更新し、Twitterにはベンチャーキャピタリストたちの喜びツイートがあふれました(もはやお馴染みの光景ですね)。

さらにAVAXは、AaveとCurveを搭載した新しい流動性マイニングイニシアチブの立ち上げを発表しました。Polygonの成功例からも、​​優れた収穫量と優良プロトコルの構築がブロックチェーンの運命を劇的に変えるということは、記憶に新しいことと思います。

無期限契約

8. オプション取引-選択肢の比較

OTMの大成功に後押しされ、ビットコインのコール買いの未決済建玉も大幅に増加しました。OTMコールのスキューが許容範囲とされるレベルで推移した一方、インプライドボラティリティー(IV)には特筆すべき動きはありませんでした。ATM IVのレベルは、毎週約10%の低下を示していました。

ここからわかることは、確かにオプション取引市場には強気の関心があるものの、未だ市況を動かすような大きな動きになっていなかったということです。

未決済建玉の推移
タイムラプスATM IVの期間構造

9. レバレッジ取引の失速

2021年までの暗号資産市場は、小売決済型が主流で、機関投資家の関与は主にネイティブファンドに限られ、今日私たちが目にしているような莫大な投資額にはほど遠いものでした。

これは、レバレッジ取引のリスクを和らげる無期限契約が、これまでの現物価格にも大きな影響を与えていたことを意味します。しかし、今年に入ってから、多方面で規制強化への圧力が高まり、市場全体のレバレッジレベルも落ち着いてきました。中には、最大レバレッジを20倍にまで引き下げた取引所もあります。

ただし、未決済ポジションの増加を、市況の変化だと早合点するのは少々危険です。なぜなら、キャッシュアンドキャリー戦略は現在も多くのトレーダーに利用されているからです。

では、これは何を意味しているのでしょうか?

まず第一に、「資金調達率を参照し、市況の変化を読み解く」といった従来の予測方法を通用しなくなってきていると言えます。純粋な資金調達率の比較データに基づく予測記事やコメントを見かけたら注意してください。その情報を鵜呑みにすると、足元をすくわれる可能性があります。

もちろん、アルトコインは例外です。個々のデジタル資産によって、無期限契約のボリュームは非流動的な現物供給を軽く凌駕する可能性すらあります。

過去のトレーディングダイナミクスに基づく分析例:

Bitcoin: 無期限先物の資金調達率

10. 資金の流れはより不透明に

昨年は、グレースケールがビットコイン現物価格の回復に大きな影響をもたらしたことは周知の事実です。しかしながら、8月後半の時点で、グレースケール・ビットコイン・トラスト(GBTC)は現物市場では12%減で取引されていたものの、その他のETP(上場取引型金融商品)ファンドの流入はまだごくわずかでした。したがって、「息を呑むような快進撃」の再来は見られませんでした。

顧客にファンドやデリバティブ、その他のさまざまなリスク商品(Coinbase株等)のエクスポージャーを提供する従来型金融機関の関与は、現在の市場にどんな変化をもたらすのでしょうか?一つ言えることは、こうした動きは資金の流れをより不透明にし、その全体像を把握するのがより難しくなるということです。

極めて高いロールコスト(=⾦融先物価格に組み込まれている資⾦調達⾦利)がかかるCME先物は別として、GBTCはかつて、機関投資家にエクスポージャーを提供する唯一無二の地位に君臨していました。しかしながら、現在の市場には、暗号資産のエクスポージャーを得るための選択肢が数多くあり、GBTCに対する需要の増加が目立たなくなっているのです。

出典: Bybit グレースケール・インベストメント BTCプレミアム

11. 基本的なダイナミクスが変化

イーサリアム供給のダイナミクスは、EIP-1559に伴うバーンによって、大規模な構造変化を遂げました。EIP-1559のレガシーチェーンの比率拡大も注目を集め、MetaMaskのサポート機能が展開されたことによってさらに広く知られることとなりました。この背後には、規制強化の対象が、暗号資産やステーブルコインからDeFiへと移行している動きがあります。

時代の流れとともに、今後のダイナミクスは枝分かれしていく可能性もあります。トレーダーは、今一度イーサリアムやビットコインの歴史を振り返り、その相関関係や過去に起きた一連の変化をおさらいする必要がありそうです。

出典: parsec.finance